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更新日:2024年4月23日
調査検討結果のまとめ、行政対応について(全文)
本年(平成12年)3月に引地川水系で判明したダイオキシン類の汚染事件については、その原因と見られる(株)荏原製作所藤沢工場の廃棄物焼却炉(流動床炉)からの排水を直ちに停止させるとともに、環境庁、神奈川県及び藤沢市が連絡調整会議を設け、周辺環境調査を実施するとともに、関係法令に基づく事業場への立入検査及び事業者から報告徴収を行い、これらの結果に基づき原因の解明及び汚染防止対策の検討を進めてきた。
本日の第4回連絡調整会議においては、これまでの一連の調査・検討の結果をとりまとめるとともに、行政対応の方針を決定した。
稲荷雨水幹線における高濃度のダイオキシン類汚染の直接的な原因は、(株)荏原製作所藤沢工場にある流動床炉の排ガスを処理するために設置されたスクラバーから発生する排水が、雨水管を経由して未処理のまま稲荷雨水幹線に放流されていたためであることが明らかになった。
この事態に至った経緯の詳細は2-1に示したとおりである。また、同工場内の他のダイオキシン類発生源と工場敷地内の汚染状況等は2-2に、ダイオキシン類の推計排出量は2-3に示したとおりである。
流動床炉のスクラバー排水が雨水管に誤接続され、未処理のまま公共用水域に排出されるに至った経緯及び原因は、これまでの立入検査及び事業者からの報告内容等から次のとおりと判断された。
(1) 流動床炉周辺区域の汚水管及び雨水管の敷設について (図1参照)(JPG:177KB)
(株)荏原製作所藤沢工場は昭和40年に操業を開始した。当初より生産部門の建屋・施設のほかに環境装置の開発や化学物質分析等の試験研究部門の施設が立地している。
昭和61年9月には、それまで一時貯留してから業者に処分委託していた試験研究施設(現在の流動床炉立地地点周辺)からの排水等を場内で処理することとし、建設会社に委託して汚水管と雨水管をいずれも暗渠で敷設した。また、この工事を行った際、汚水管には7箇所の汚水桝を、また、雨水管には7箇所の雨水桝を設置している。後に述べる流動床炉のスクラバー排水が誤接続されることとなった雨水桝も、この工事の一環として昭和61年に設置されたものである。
この段階では、試験研究施設から発生する汚水は、総合排水処理施設での処理を経て公共用水域(稲荷雨水幹線)に排出され、一方、その周辺に降った雨水は雨水管を経由して同じく稲荷雨水幹線に排出されていた。この汚水管及び雨水管自体の配置が変更された事実はない。
(2) 流動床炉の設置工事
流動床炉は、平成4年10月に工場の生産部門から発生する廃棄物を焼却処理するために設置された。この流動床炉の設置工事は平成4年4月から開始されたが、工事中に一部計画が変更され、流動床炉と汚水桝の間に油水分離槽を設置することとされた。この工事の発注に当たり、荏原製作所から工事請負業者に示した工事指示書では、油水分離槽を汚水桝と接続するよう指示されていたが、工事を請け負った業者は油水分離槽を雨水桝に誤接続し、発注した荏原製作所側も点検を怠り、この工事ミスには気づかなかった。なお、工事指示書に添付された工場敷地内の配管等を示した図面には、汚水管のみが記入されており、約0.5m離れた位置に埋設された雨水管が記入されていなかったという事実が、このたびの調査の過程で確認された。
平成4年11月に流動床炉が運転を開始してから、半年後の平成5年5月に荏原製作所藤沢工場は、この炉を試験研究用として利用する計画を立て、これに伴い、排ガス中の塩化水素等の酸性ガスを除去することを目的として、平成5年7月にスクラバーを追加設置した。このスクラバー設置工事に当たり、その排水管が前述のとおり平成4年の工事で、雨水管に誤接続されていた油水分離槽に接続されたことから、スクラバー排水が雨水管を経由して未処理で稲荷雨水幹線に排出されるに至ったものである。
(3) 流動床炉の焼却能力及び運転状況について (図2参照)(JPG:23KB)
本流動床炉の排ガスは、バグフィルターで除塵したのちにスクラバーによって洗浄され、大気中に排出される仕組みとなっていた。スクラバー内ではアルカリ性の洗浄液が循環使用されて、蒸発損失分の補填とpH調整のために洗浄水が随時補給される。また、使用済みの洗浄水のオーバーフロー分は油水分離槽を経由して排出される構造となっており、この排水中には循環使用によって高濃度となったダイオキシン類が含まれていた。
事業者からの報告及び神奈川県による立入検査結果等によれば、流動床炉の定格能力、排ガス量及び排水量は表1のとおりであり、また、廃棄物の年度別の焼却実績は表2のとおりである。
なお、焼却灰の発生量は表2に示したとおりであるが、これらは全量が廃棄物処理業者に委託して処理されていたことが確認されている。
(1) ダイオキシン類の発生源
今回の立入検査及び事業者報告から判断して、現在、(株)荏原製作所藤沢工場内に設置されている施設としては、前述の流動床炉のほか、以下のものがダイオキシン類を発生する施設と判断される。
1.及び2.の施設では排出ガスを通じて大気中にも排出されるが、他の施設から発生するダイオキシン類は専ら排水に移行する。これら1.~4.の施設からの排水は汚水管に正しく排出され、総合排水処理施設での処理を経て稲荷雨水幹線に排出されている *3。この総合排水処理施設においては、凝集槽-中和槽-沈殿槽-滅菌槽を経て排水の処理が行われている。
*3 このため、総合排水処理施設もダイオキシン類を排出することになるが、これは二次的な排出源として整理するのが適当である。
県・市による立入検査結果によれば、これらの施設からのダイオキシン類の発生・排出状況は、表3-1及び図3(JPG:138KB)に示すとおりである。
また、事業者の測定によれば、これらの施設から発生・排出されるダイオキシン類濃度は表3-2のとおりとなっている。
なお、ガス化溶融炉及びIPP発電所から発生した焼却灰は、流動床炉からのそれと同様に全量が廃棄物処理業者に委託して処理されていたことが確認されている。
以上の排水処理形態と、ダイオキシン類の排出濃度及び排水量から判断すれば、流動床炉のスクラバー排水のダイオキシン類レベル(10万pg-TEQ/L程度)及び排水量は、稲荷雨水幹線で検出された高濃度のダイオキシン類汚染を説明するに十分なものである。一方、総合排水処理施設の排水は、本件事件の主要な原因とはなっていない。
(2) 工場内のダイオキシン類による汚染について
立入検査に当たっては、公共用水域のダイオキシン類汚染の直接的な原因と判断されるスクラバー排水のほか、工場内の各種試料を採取しダイオキシン類の濃度を分析した。
具体的には、流動床炉から発生した燃え殻、ばいじん及びピット汚泥、流動床炉周辺の側溝等の堆積物等を分析したが、その結果から、ばいじん中に高濃度のダイオキシン類が含まれていたほか、ばいじんの飛散によると思われる施設周辺の堆積物の汚染が認められた。なお、ピット汚泥等はスクラバー排水に混入して流下した可能性もあると考えられる。これらの結果を表3-1及び図3(JPG:138KB)にまとめて示した。
(3) 工場内における汚泥の埋立処分による汚染について
立入検査結果及び事業者からの報告によれば、事業者は、総合排水処理施設の沈砂池に沈殿した汚泥を、平成5年9月から平成10年4月までの間、同工場敷地内に埋立処分していたことが明らかになり、その総量は、約550立方メートルであると推定される。
事業者が平成12年4月に実施した、埋立処分したと思われる汚泥の重金属溶出検査結果では、埋立基準値を下回っていた。また、埋立地周辺地下水の重金属の検査結果も、地下水環境基準値を下回っていた。さらに埋立処分したと思われる汚泥のダイオキシン類の分析結果(簡易分析)は、土壌調査指標値(250pg-TEQ/g)を下回っていた。なお、埋立地周辺地下水中のダイオキシン類については現在分析中であるが、現時点においては周辺環境の汚染に結びつくような結果は確認されていない。
この埋立処分は、平成10年4月まで行われていたことから、今後、地下水を汚染するおそれがないことが確認できるまで、埋立地周辺の地下水質を継続して測定する必要がある。
(4) 工場内の配管施設及び総合排水処理施設について
このたびの一連の調査の結果、本工場では、流動床炉のスクラバー排水以外にも27カ所で汚水が雨水管に導かれ、未処理のまま稲荷雨水幹線に排出されていたことが明らかとなった。これらは空調施設からの冷却水、手洗い水等が主であり、いずれも公害規制法令や条例上の特定施設等には該当せず、また、発生過程から判断して汚染負荷量が特段に大きなものではない。しかし、こうした事態が生じた原因も、流動床炉のスクラバー排水管の誤接続と軌を一にするものであり、今回の事件が判明するまで把握できなかった事業者の管理体制には重大な問題があったと言わざるを得ない。
また、汚水管で集水したすべての汚水及び工場内で発生した一部の雨水を一括して処理するために設けられた総合排水処理施設は、昭和47年に設置され、その後工場内の施設の追加設置等に応じ数度にわたり構造変更されていた。現在は、降雨により雨水の流入量が増加してその処理能力量を超える場合には、オーバーフロー水が処理されずに直接場外に排出される構造となっている。これが直ちにダイオキシン類対策特別措置法又は水質汚濁防止法上の排水基準を超える排水の排出につながるとは断定できないものの、排水の管理及び処理を徹底する観点から改善される必要がある。
事業者からの報告及び神奈川県による立入検査の結果を踏まえて検討したところ、この流動床炉が平成4年11月に運転を開始し、本年3月23日に運転を停止するまでの7年5ヶ月の間に、当該工場全体から環境に排出されたダイオキシン類の総量 *4 は、表4のとおり水系に3.0g-TEQ、大気に1.4g-TEQの合計4.4g-TEQと推計される。
*4 事業者による測定値はPCDD及びPCDFのみであるため、推計値も同様とした。なお、コプラナーPCBが全ダイオキシン類に占める比率は一般的には10~15%程度である。
本件事件に伴う周辺環境への影響を把握するため、第1回連絡調整会議において決定した調査計画に従って周辺環境調査を行った。その結果は表5、表6、図4(JPG:132KB)のとおりである。なお、調査の実施に当たっては、調査計画の適切性、測定値の精度管理等に関して専門家の意見を聴取したほか、5月30日には「神奈川県化学物質等環境保全対策検討委員会」を開催し、調査結果について評価をいただいた。
(1) 水質
発生源の直近にある稲荷雨水幹線(暗渠の排水路)では、流動床炉の運転に伴って排水が排出されていた時点では3,200~8,100pg-TEQ/Lという著しく高濃度のダイオキシン類が検出された。この運転・排水が停止された3月23日の後、濃度レベルの低減が見られているものの、4月26日までの時点で平均42pg-TEQ/Lと環境基準を大幅に上回っている。
また、引地川本川の代表的な測定地点である富士見橋では、流動床炉が稼働していた3月23日以前は、平均6.5pg-TEQ/Lのダイオキシン類が検出された(環境庁の平成10年度全国調査 *5、平成11年度の神奈川県及び藤沢市調査を含む)。一方、当該施設の運転及び排水が停止された後の3月24日から4月26日までは、平均2.5pg-TEQ/Lと濃度レベルが改善されているが、なお環境基準を上回っている状況にある。
工場敷地境界から引地川に至る稲荷雨水幹線の全線及び流動床炉のスクラバー排水が流下した工場敷地内の雨水管の全区間については、4月11日に開催された第2回連絡調整会議での協議結果を受け、事業者において4月14日から5月6日にかけて清掃作業が行われた。
*5 環境庁が実施した「平成10年度ダイオキシン類緊急全国一斉調査」。以下、「環境庁の平成10年度全国調査」という。
(2) 底質
底質汚染は長年にわたる環境負荷の累積を反映しているので、その濃度レベルの評価は、発生源との位置関係や全国的な調査結果と比較することによって行うことが適当である。
引地川では、稲荷雨水幹線の合流後の高名橋で最も高い35pg-TEQ/gが検出され、高名橋を含めその下流では平均12pg-TEQ/gであり、環境庁の平成10年度全国調査の結果(平均8.3pg-TEQ/g)と比較してやや高い濃度レベルであった。
(3) 魚類
引地川の魚類については、コイ、フナ、ボラの3種、7検体を調査したところ平均10pg-TEQ/gであり、環境庁の平成10年度全国調査の結果(平均2.2pg-TEQ/g)より高い濃度レベルであった。これは上記のような環境基準を上回る水質のダイオキシン類汚染による影響を受けている可能性がある。
引地川では漁業権は設定されておらず、漁業は営まれていないが、念のため、釣り等で捕獲した魚は食用に供しないことが望ましい。
(4) 総括
引地川水系では、流動床炉の運転停止以降も水質が環境基準を超えていること等から、引き続き十分な環境監視が必要である。
(1) 水質
引地川河口から概ね2km以内の海域での調査結果は、水質のダイオキシン類濃度レベルが平均0.55pg-TEQ/Lであり、環境基準を下回っていた。
(2) 底質
同海域での底質の濃度レベルは平均2.4pg-TEQ/gであり、環境庁の平成10年度全国調査の結果(平均8.3pg-TEQ/g)を下回っていた。
(3) 魚介類
同海域で捕獲されたシラス、ヒラメ、メイタガレイ等の魚介類8種類、10検体を調査したところ、魚種により差異はあるが平均1.6pg-TEQ/gであり、環境庁の平成10年度全国調査の結果(平均2.2pg-TEQ/g)を下回っていた。なお、検出範囲で見ても、厚生省の平成10年度の食品中のダイオキシン類汚染実態調査の結果の範囲内であった。
(4) 海水浴場
周辺の海水浴場である辻堂海岸、片瀬西浜、片瀬東浜で調査したところ、いずれについても、水質(平均で0.23pg-TEQ/L)は水質環境基準を下回り、浜砂(平均で0.14pg-TEQ/g)は土壌環境基準及び調査指標値と比較しても十分に下回り、底質(平均0.68pg-TEQ/g)は環境庁の平成10年度全国調査の結果を下回っていた。
(5) 総括
引地川河口周辺の相模湾への影響は小さかったものと考えられる。
(1) 井戸水・湧水
引地川本川から両岸600m程度内にある井戸水13検体、湧水1検体を調査した結果、いずれも環境基準や厚生省が定める水道水質に関する監視項目としての指針値を下回るレベルであり、影響は認められていない。また、環境庁の平成10年度全国調査の結果の範囲内にあり、むしろ低いレンジにある。
(2) 農作物等
周辺で栽培された農作物(キャベツ及びネギ)3検体を調査した結果、いずれもこれまで環境庁や農林水産省が実施した調査の範囲内にあり、むしろ低いレンジにある。また、農用地で採取した3検体の土壌も土壌環境基準や調査指標値を大幅に下回るレベルにある。
(3) 総括
井戸水や農作物等に対する影響はないか、極めて小さいと考えられる。
荏原製作所藤沢工場からのダイオキシン類排出の主要な経路は、場内の雨水管から稲荷雨水幹線を経由した引地川への排出であり、その他に、総合排水処理施設から放流される排水及び流動床炉等から大気中への排出があった。これらのダイオキシン類の環境負荷に伴う人の健康影響について考察した結果は次のとおりである。
*6 年平均値は、藤沢市役所0.15pg-TEQ/立方メートル、湘南台文化センター0.21pg-TEQ/立方メートル、御所見小学校0.29pg-TEQ/立方メートル、明治市民センター0.24pg-TEQ/立方メートル
以上1.~4.を総合すれば、周辺地域での井戸水の飲用や農作物の摂取といった日常生活、周辺海域での海水浴等のレジャー活動及び周辺海域で水揚げされる魚介類の摂取によって、健康に影響が生ずるおそれはないものと判断される。ただし、引地川の魚類は比較的高濃度のダイオキシン類が検出されていることから、食用に供さないことが望ましい。
本件事件に関する法令上の違反事実等について、関係機関とも調整を図りつつ検討を行った結果及びそれを踏まえて決定された行政措置の方針は以下のとおりである。
(1) ダイオキシン類対策特別措置法
ア ダイオキシン類の排出基準について
ダイオキシン類対策特別措置法は、本年1月15日に施行された。本件事件の原因となった流動床炉及び付設するスクラバーは、同法の特定施設に該当する。また、同法の特定施設からの排出ガス及び公共用水域への排出水に対しては、排出基準が設定され、事業者はこれへの適合義務が課される。ただし、同法の施行前に設置されていた施設(既存施設)については、施行後1年間は排出基準の適用が猶予されている。
本件については、流動床炉のスクラバー排水が未処理で公共用水域に排出され、ダイオキシン類の排出基準を大幅に超過していた事実が確認されたが、上記の理由から現時点においては、排出基準の違反を問うことができない。
イ 事故時の措置について
ダイオキシン類対策特別措置法では、特定施設の故障、破損等の事故が発生し、ダイオキシン類が多量に排出され、周辺区域の人の健康が損なわれるおそれあるときは、県知事が事故の拡大又は再発の防止に必要な措置を命令できることとされている。この規定は、既設施設についても直ちに適用される。
本件は、平成4年の流動床炉設置時に整備した排水系統に欠陥があり、同5年に設置したスクラバー(特定施設)の汚水を、この欠陥ある排水系統に接続したために起きたものであって、特定施設に関する「事故」に該当すると解し得る。しかも、このためにダイシキシン類が多量に排出され、公共用水域で人の健康保護に係る環境基準を大幅に超える汚染が生じたものであり、3月23日の事件発見時点において、県知事が措置命令を発動できる潜在的な条件は満たしていたと解される。
実際には3月23日時点で、県は施設の使用と排水の停止を事業者に指示し、事業者はこれに従って施設の使用・排水を停止したことから、措置命令による場合と同等の応急措置が講じられた。これは、緊急を要する事態の下で、妥当な対応であったといえる。
(2) 水質汚濁防止法
本工場内には水質汚濁防止法の特定施設である表面処理施設等が設置されており、同工場から公共用水域に排出される水(排出水)に対して、同法の排水基準が適用される。
同工場では流動床炉のスクラバー排水が未処理で公共用水域に排出されていたことから、水濁法の排水基準も超過する可能性があった。しかし、神奈川県が本年3月23日のダイオキシン類対策特別措置法に基づく立入検査の際に行った採水・検査によると、測定した有害物質(カドミウム、鉛、水銀など10項目)はすべて排水基準以下であった。なお、流動床炉及びスクラバーは3月23日夕刻から運転が停止されているため、再度の採水・検査を行うことは不可能である。
また、今回の一連の調査により、上記の流動床炉のスクラバー以外にも、排水系統及び総合排水処理施設の構造に好ましくない点があることが判明した。しかし、同工場の排出水については、これまで藤沢市が定期的に行ってきた水質検査によっても、排水基準違反の事実は認められていない。
(3) 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
ア 廃棄物処理施設の構造基準・維持管理基準について
流動床炉は廃棄物焼却施設であり、廃棄物処理法に基づく構造基準・維持管理基準が設定され、事業者はこれらへの適合義務が課される。これら基準によれば、排水により生活環境保全上の支障が生じないよう必要な排水処理設備を設け、定期的に放流水の水質検査を行うこと等が定められている。しかし、この流動床炉のスクラバー排水は雨水管を経由して未処理で放流され、水質検査を行っていないなど、構造基準及び維持管理基準に適合していなかった。
廃棄物処理法では、廃棄物処理施設が構造基準又は維持管理基準に適合していないときは、県知事が必要な改善を命ずることができることとされており、本件においても改善命令を発動できる条件は満たしていた。しかし実際には、3月23日時点で事業者が、流動床炉及びスクラバーの停止措置をとっており、また、4月4日には流動床炉の廃止・撤去の意向を表明しているため、現時点で改善命令を発動すべき状況にはない。
イ 産業廃棄物の処理基準及び産業廃棄物処理施設の設置許可について
廃棄物処理法により、事業者には産業廃棄物処理基準(産業廃棄物の収集、運搬及び処分に関する基準)を遵守する義務が課せられており、この基準を遵守していないときは、県知事が必要な改善を命ずることができることととされている。
事業者からの報告及び神奈川県による立入検査結果から、事業者が、総合排水処理施設の沈砂池で発生した汚泥を、平成5年9月から平成10年4月まで藤沢工場敷地内に埋立処分していたことが明らかとなった。産業廃棄物である汚泥を埋立処分する場合には、含水率、有害物質及び地下水の汚染防止等に関する処理基準を遵守しなければならない。立入検査等によっても埋立した当時の汚泥の性状は確認できなかったが、事業者が平成12年4月に行った埋立地周辺の土壌及び地下水の検査結果では、現在のところ、周辺環境の汚染に結びつくような結果は確認されていない。
また、当該汚泥の埋立処分を開始した時点では、その埋立面積が1,000平方メートル以上である場合には、最終処分場としての設置許可が必要とされていたが、平成12年4月に行ったボーリング調査を含めた事業者からの報告によれば、埋立面積は900平方メートル以下と判断され、許可対象施設には該当しない。
ウ 産業廃棄物処理の委託基準について
廃棄物処理法では、産業廃棄物の処理を委託する際の基準が設定されており、事業者が違反した場合には罰則の適用もある。
事業者からの報告及び神奈川県による立入検査結果により、事業者が産業廃棄物処理業者と締結した委託契約書には、委託基準に示されている契約書に記載すべき事項の一部が記載されていなかった事実が判明した。
しかし、産業廃棄物の委託先は許可を有する産業廃棄物処理業者であり、事業者によりその適正な処分が確認されていたことを考慮すると、違反内容としては軽微なものであると認められる。
(4) その他
流動床炉が平成4年に設置されて以降、スクラバーの付設を含めて数度にわたり構造変更が行われているが、その過程で水質質汚濁防止法、廃棄物処理法等の関係法令及び県生活環境保全条例に基づく届出変更もしくは変更許可申請がなされていなかった。
また、その他の施設についてもこれらの法令上必要とされる届出が出されていないケースが見られた。
こうした手続き上の違反については、まず、担当行政機関が是正を指導し、その指導に従わない悪質なケースについて罰則の適用を行うのが一般的な取扱であり、(株)荏原製作所藤沢工場に対しても、今後速やかにそうした指導を行うこととしている。
(株)荏原製作所藤沢工場のダイオキシン類汚染事件については、判明直後の神奈川県の指示により排水の停止措置はとられているものの、長年にわたり高濃度のダイオキシン類を含む排水を排出し、地域住民等に多大な不安をもたらしたことの重大性にかんがみれば、法的義務の範囲にとどまることなく、汚染原因の完全な是正と再発防止を徹底する見地から、事業者に対し迅速かつ的確な改善措置の実施を求めることが必要である。
このため、(株)荏原製作所に対し、以下の事項を主たる内容とする勧告を行うこととした。
この勧告は、ダイオキシン類対策特別措置法及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律を施行する神奈川県知事並びに水質汚濁防止法及び神奈川県生活環境の保全等に関する条例を施行する藤沢市長から、(株)荏原製作所(前田滋代表取締役社長)に対し、それぞれ平成12年5月31日付けをもって行うこととした。また、この勧告においては、6月9日までに、指示事項を受けて事業者が行う措置内容の実施計画書を提出するよう求めている。(別添1、別添2参照)
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